大多喜學道舎開単の趣意

ダルマサンガ有縁のみなさま

合掌

初雁の候 みなさまにおかれましては、つつがなく過ごしのことと存じます。日頃はダルマサンガ(旧朽木學道舎)の活動にご理解とご厚情を賜り、心より御礼を申し上げます。
さて、2001年5月に開単いたしました朽木學道舎も、お陰様で平成23年に10周年を迎えることができました。

最初の数年こそ、あまり参禅者が来ない状況が続きましたが、現在は7日間の接心を年10回ほど厳修しております。宿泊や厨房など、いまだ不充分な状況であるにもかかわらず、日本各地から年代や性別、職業など多様で真摯な参禅者がが参集してくれるようになりました。また、いまだ日本語サイトしか開設しておりませんが、たまには、外国から若い参禅者もやってくるようになりました。

學道舎開単からの10年周年を、2001年9月11日の全世界に衝撃を与えたアメリカ合衆国における「同時多発テロ」から始まり、アフガニスタン紛争、イラク戦争を経て、ちょうど10年目の本年3月11日、わたくしたちの国は未曾有の東日本大震災によって多くの方々が亡くなったばかりでなく、その後の福島第一原子力発電所の事故によって、人間もまたその網の目の一員であり、わたくしたちの生命の基盤そのものである生態系に、いまもなお放射能が漏れ続けているという最悪の事態で迎えることとなりました。

現代のグローバル資本主義の限界は、もはや誰の目にも明らかであり、世界も日本も価値の基軸を失い、不透明な混沌とした状況が続いております。

豊かさを求め、わたくしたちが営々と築き上げてきたはずの社会で、原発に象徴される巨大科学技術が人間に刃を向ける一方、毎年3万人もの自殺者を出し、100万人以上の人々が鬱病によって苦しんでいると云われます。「人間とはいかなる存在なのか」「ほんとうの豊かさとはいかなることなのか」「死者と共に在ることは可能なのか」こうした根源的な問を問い直すことが、今日ほど求められる時代はありません。

こうした問いに、真に答え得るものは仏教以外にはありません。しかし、残念ながら現代日本の組織仏教は、新旧を問わずその答えを持ってはおりません。學道舎開単からの10年、この間の経験からは、もはや既成の宗門仏教や新興宗教どころか、仏教という枠組みさえ超えて、真摯にダルマを探求する自立した人々が数多く存在することが分かりました。大乗仏教がそれまでの形骸化した伝統仏教の革新運動であったように、現代の日本でもこうした動きが、静かに、深く進行しております。

古来、「大道無門 千差路あり」と云われますように、ほんらいこの道はいつでも誰にでも開かれているものです。しかしながら、道元禅師が「正師を得ずんば 學ばざるに如かず」と注意を喚起しておられますように、この道を一人で歩むことは難しいばかりでなく、時には危険なことさえあります。同じ志を持つ者が集まり、「真の自己」に目覚めるため共に坐禅ができる、優れた環境の中にある、誰にでも開かれた在家禅堂が必要な所以です。

ここ数年、関東周辺からの参禅者が増えて参りましたが、琵琶湖の西北部の不便な山中にあります學道舎へ来るための、経済的、時間的な負担はいかばかりのものだろうと、心を痛めて参りました。

また、5月の連休の「灌仏会摂心会」や年末年始の「成道会摂心会」は、こうした時期にしか連続した休暇が取れない在家の参禅者が多数参集され、朽木學道舎の現状では参禅をお断りせざるを得ない状況になりつつあります。

以上のような状況を踏まえ、朽木學道舎開単10周年を期に、首都圏にも學道舎を開設すべく、適当な場所と建物を探して参りましたが、この度ようやく理想的な物件を見つけ仮契約に漕ぎ着けました。

場所は房総半島中央部、太平洋岸よりの山中、夷隅郡大多喜町です。太平洋に注ぐ夷隅川と東京湾に注ぐ養老川の源流域、日本海型気候の冷温帯(ブナ帯)下部に位置します朽木學道舎に対して、こちらはシイやカシからなる暖温帯に属します。

また、大多喜は徳川四天王の一人、本多忠勝が開いた城下町であり、周辺には「粟又の滝」で名高い養老渓谷やその温泉街、東大演習林、日蓮上人所縁の清澄寺など、歴史的にも自然環境も素晴らしい土地です。

東京からの所要時間は2時間と少し、運賃は往復5,000円以内という条件を満たした理想的な場所です。JR外房線の大原駅でいすみ鉄道に乗り換え50分、またはJR内房線の五井駅で小湊鐵道に乗り換え、90分。両方の路線の終点である上総中野駅で下車、駅から歩いて10分もかからない場所にもかかわらず、静かな田園地帯であり、朽木學道舎と同じく山に囲まれ、そばを川が流れ、日当たりの良い高台にあり、「山環抱水」の素晴らしい環境です。

土地面積は実測で750坪ほど。朽木學道舎の1,5倍ほどあります。数寄屋建築である建物は85坪。最大限20人ほどの方の坐禅と宿泊が可能です。事情により完成直前に中断され、放置されていた格安物件で、完成までにはもう少し時間がかかりますが、できるだけ早く必要最小限の工事を済ませ、遅くとも再来年の春までには開単し、定期的なニューズレターの発行など含め、これまで以上に幅広い活動を展開して行きたいと念願しております。

學道舎に参禅して下さっております幾人かの篤志家からの喜捨と、これまで一貫して學道舎の運営を支援してくれました学生時代の友人からの借入金によって、何とか購入資金の大半は工面することができましたが、残された内装工事や電気水道の工事などの資金が不足しております。誠に心苦しい限りですが、参禅者を始め有縁の皆さまのお力をお借りしたく、ここに謹んでお願いする次第です。

また多額の借金を背負うことになりますが、残された人生を賭け、身体が動く限り、これまで以上に朽木と大多喜で、ダルマを伝えるべく働いて行く所存です。もとより額の大小を問うものでありません。大多喜學道舎開単の主旨をぜひともご理解いただき、一人でも多くのみなさまの協力を賜りたく、ここに謹んでお願い申し上げます。

初雪の便りも聞こえる今日この頃、朝夕の冷え込みも厳しくなって参りました。みなさまもどうぞご自愛ください。朽木あるいは大多喜で、また共に坐禅できる日を楽しみにしております。

敬具
平成23年11月23日

朽木學道舎 飯高転石   九拝

 


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